お母さんが金髪で、お父さんが黒髪だと【チャングー・バリ】
その場所でだけ、奏でられる音がすき。【チャングー・バリ】
その場所でだけ、奏でられる音がすきだ。風の音、海の音、暮らしの音、階段を駆け上がる音、歌う声。いろいろあると思うけれど、バリ・チャングーエリアのそれは、トン、トン、トトンという、新しい建物ができていく音だった。
バリのデンパサール空港に到着したとき、私は少し急いでいた。【デンパサール・バリ】
バリのデンパサール空港に到着したとき、私は少し急いでいた。20時に到着すると伝えていたのに、私が荷物のピックアップを済ませて到着ゲートの待ち合わせポイントに着くのは20:45を少し過ぎたくらいになりそうだったからだ。
朝起きたら、まずは陽子とYumaに挨拶をしよう。【クアラルンプール・マレーシア】
朝起きたらまずは陽子とYumaに挨拶をしよう。陽子にはおはようございます、と。Yumaにはグッモーニン、と。Timは昨夜も体調がすぐれないと言っていたから、今日はまだ寝ているだろうと予想する。大丈夫かな。早くよくなるといいんだけど。
おはようと言ったら、次はシャワーを浴びよう。日本から持ってきたシャンプーと、トリートメント。オルビスの洗顔とドルツと歯磨き粉。ボディソープはシャワールームにあるけれど、私はそれには手を出さずに部屋から持ってきたフランジパニのソープを使う。ステイ1日目に「バリに行きたい気がする」と陽子に打ち明けたら、その夜出掛けたあとにはベッドの上にバリのソープを置いてくれていた。「あなたは呼ばれているのかもよ」とでも言うかのように。
シャワーを浴びたら、キッチンのウォーターサーバーから冷たい水を少しいただく。口に含んだら部屋に戻って、窓を開けようと思い立つ。外を見渡すと、クアラルンプールの喧騒が広がる。ブリックフィールズと呼ばれるリトル・インディアの世界。朝6時はまだ人影も、車も少ないけれど7時台ともなれば、自家用車が通り、バスが走り、バイクが行き交い、簡単な渋滞なんかが発生する道も出てくる。
KLセントラル駅から徒歩すぐの高層階コンドミニアム。38階建ての美しい建物は、窓がガラス張りの箇所が多くて光がよく入る。音も、光も、風も通る。リトル・インディアから吹いてくる風は、家の反対を抜けてKLCCの方に向かっていく。もとはジャングルだったというクアラルンプールの土地柄は、発展を続けているとはいえ、遠くまで見渡せばまだ緑が多く残る。
今日はこれから、クアラルンプール最後の洗濯物をして、荷物を詰めて、私を見送るために向かいのマダムが作ってくれるというランチを5〜6名の陽子の友達と一緒に食べて、そしてKLセントラル駅からバスで空港まで向かう。飛行機は16:55発だから、15時には空港に着いていたい。とするとやはり14時のバスには乗らなければいけないから、13時半には家をでるつもりでいたほうがいいだろう。
バックパッカーでないといえども、仮にも長期旅行者だ。荷物はそこまで少なくない。重い荷物を持って出かけるのか、と溜息が出そうになるところに、「駅まで送って行ってあげる」と陽子が笑う。「いえそんな…」と言いそうになるけれど、ここまで甘えきっているひとに、下手な嘘はつけない。「重くてどうしよう…と思っていたんです。めちゃくちゃありがとうございます」と伝える。
陽子のやさしさは、日を追って身にしみるようにあたたかい。つい6日前にバングサ駅で催されたフラワーアレンジメントの会場で出会った見知らぬ日本人を、「そんな古いホテルに泊まっているなら、同じ駅だからうちにきなさい」と誘ってくれた、なんとも私にとってはマリアのような存在である。
陽子と息子のYuma、旦那さんのTimについては後日改めて書いたりするかもしれないし、灯台もと暮らしの記事やことりっぷの記事でも登場するだろうから、詳細は追々……。とりあえずいいひとだよ。
窓を開けた部屋を、やっぱり今日もクアラルンプールの風とインドの雰囲気と、そして車とバイクの音が通り抜けていく。キッチンから食器の音がしてくる。見えないけれど、陽子がもしかしたら、コーヒーか、フレッシュジュースを作ってくれているのかもしれない。
日本から持参した海外対応のドライヤーを手にして、急いで髪を乾かすふりをする。別にこれ、途中だっていいんだ。だってここは1年中気温の高いクアラルンプール。ほっといてもそのうち乾くよ。8時に近付いて、空の青さがだんだん濃くなってきた。スマホを見ると、次に滞在するバリのチャングーのホストからメッセージが入る。「空港からのピックアップはいらない?」今回はAirbnbを使ってみることにした。数時間探したのちに、陽子に会うときのように写真でピンときたホテル?に、昨夜遅くにメッセージをしたら即返事がきた。
バリは二度目だ。クタでもレギャンでも、スミニャックでもなく、今回はそのさきのエリア・チャングーにまずは向かう。数泊したら、本来の目的地である、もっと内陸部の芸術と深い緑の街、ウブドに居を移そう。
それまではもう少し、クアラルンプールの雰囲気を楽しむ。もうすぐ朝の8時だ。
クアラルンプールのKLCCパークの噴水の前で【クアラルンプール・マレーシア】
バリに行こうと決めたのは、偶然といえばそうだし、必然といえば必然だった。必然、はちょっとかっこよすぎるかもしれないな。海外を気ままに放浪すると決めた瞬間から、バリのウブドには行きたいと、直感が言っていた。
バリには、一度だけ訪れたことがあった。
たしかあれは大学の卒業旅行で、当時まだ彼氏だった現・旦那と2人で初めて海外旅行をしたときのことだった。3月だったから雨季だった。でもクタ・レギャンの喧騒や、スミニャックのおしゃれな海沿いのバー、ジンバランのシーフード、そしてウブドのライステラスとキンタマーニ(うーんネーミングがねw)の雨上がりの美しさといったら、なかった。
ウブドに行きたいと思ったのは、なんとなくだ。でも、ラオスのルアンパバーンも、言ってしまえばタイのチェンマイも、イメージとしては近い。緑に囲まれた、深い緑色のある、文化的な街。絵があって、踊りがあって、民芸品は色彩にあふれていて、サルが時折ひとのバッグからモノを盗む。いいじゃない。そこで朝ゆっくりと起きて、フルーツを食べて、ストレッチを兼ねたヨガをして、街を歩いてから文章を書く。楽しそうで、ほしいリズムだった。ほしい空間だった。ほしい時間の流れだった。
緑は、きっと誰もがそうだと思うが、私がとても好きな色だ。深い青や、深い緑、薄かったりかすれていたり、まぁ色味はなんでもいいんだけど、青と緑の交わる場所は、いつも気持ちがきれいになる。持ち物はカラフルな方がいい。気持ちと身なりを明るくして、緑と青の世界に埋もれるのは、きらいじゃない。サンダルとワンピースで一日を過ごして、またワンピースに着替えて一日を終えるのだ。後者のワンピースはパジャマ代わりに、の意だけれど。
この色合が、今私の部屋にあるのは偶然なのか、必然なのかよぅ分からんけれど、いいことだと思った。クアラルンプールの陽子さんの家に初めて訪れた時、リビングに飾ってあった1枚の絵。色合いが好きだったから「素敵ですね」とひとことつぶやいたら、翌朝には私の泊まる予定の部屋に、その絵が掛け替えられていた。以後5夜にわたって、私はその絵と向き合いながらマレーシアの日々を過ごすことになる。
クアラルンプールは、たしかに喧騒と発展の街だった。歩けど歩けどショッピングモールで、H&Mがあればロクシタンがひしめいて、PARKSONと呼ばれる百貨店に、ISETAN、AEON、DiorにVUITTON。ユニクロや無印良品、果てはダイソーまである始末だから、この街は旅のはじまりの街に適しているようでいて、もしかしたら長く旅をするひとの中継地点として、装備補充の街に向くと宣伝しなおした方がいいのではないかとすら思えてくる。
バリに行こうと決めたのは、昨日の朝だった。あと数十時間でクアラルンプールを離れるのだからと、離れる前に見たかったペトロナスツインタワーの見えるKLCCパークへ向かう。
ふと見ると、噴水の勢いがいい。今まで旅した中ですごく上品な噴水だなと感じたのは、スペインのアルハンブラ宮殿の中にあるそれだったけれど、あれがたおやかに夫を見つめる白魚の指の妻だとすると、この噴水はまるでおせっかいの過ぎる商店のおばちゃんのようだなとなぜか擬人化して思う。
もうすぐKLCCパークの日が暮れる。KLCCパークは、もともとジャングルだったというマレーシアの街を切り開いたという面影をむしろ全く見せない、ともすれば非常に人工的な印象を与える緑地公園だ。いや、これは別に否定してはいなくて、私はむしろいま好んでここにいるのだからして、この景観と雰囲気は好きだ、と伝えたい。
周囲は建設中の高層ビルになるであろう建物に溢れ、工事の音が噴水の音に混じって聞こえ、大型ショッピングモールの中をひとが行き交い、舗装された道を地元のひとがジョギングしながら通り過ぎていく。
タクシーはひっきりなしに訪れ、ひとを吐き出し、また連れて行き、肌の色の違うひとがもはやこの国ではどこの国のひとなのか判別せず、夕日が落ちそうな時間帯だからして空の色は刻々と変わり、ベビーカーを押すママが声を荒げて旦那に支持し、観光客の女子3名がツインタワーをバックにさっきから諸々のポーズでベストショットを押さえるために苦心している。
一言で言えば、国際色が豊かな喧騒の街、だろう。ここマレーシア・クアラルンプールは。
でも初めてこの街に降り立ったときと違って、今は私はクアラルンプールに一瞬私はこのひとたちの家族なのでは? と錯覚してしまうくらい好きになってしまったひとたちを持った。異国の地において、頼れるひとがいて、頼っていいのよと言ってくれるひとがいて、という環境は、こんなにもこの国を親しく感じさせてしまうのか。
私は何をしに旅に出たんだろう という問いは、難しい。
気が付いたらショッピングモール・SURIA KLCCの前にひとが集まってきた。噴水はもう10分以上前から止まったままだ。空が暗くなるのを境目に、ここは噴水ショーと夜景の素晴らしい場所に変わるのだろう。 水面に映るのは、灯りの残像と、頭にヒジャブを巻いたカラフルな女性の面影。
赤に黄色に黄緑に水色。きっとどの国にもこんな色たちは溢れているはずなのに、英語にマレー語、中国語にヒンディー語……ほかにも多数の言語が交じるこの国においては、その色の鮮やかさがさらに強調されている気がしてならない。
きれいな街だな、と思う。噴水が、また動き始めた。きっとこれからクアラルンプールのマジックアワーと、そしてそれに続く夜が始まるのだろう。